9/10 ミスター京都ボディビル大会

  京の街にも秋風が吹き始め、今年もミスター京都ボディビル大 会が開催された。京大バーベル部関係者が社会人ボディビル大 会に出場する時の団体名を百万遍マッスルクラブと言い、出場 者数こそ少ないもののこれまで何人もの入賞者を輩出してきた が、今年はOB仲川氏が出場する事になっていた。仲川氏は7年 前の同大会で既に3位になっていたがその後トレーニングから 完全に離れていたブランクの期間が長く、練習再開から1年半 だったので往事のバルクや試合勘をどこまで取り戻せるかが焦 点であった。

試合前日、恒例のポージング練習があった。その時目にした仲 川氏の姿は筋肉の張りは良いものの、かなり水を含んでいる印 象だった。実際、ポーズをいくつか取る間にも汗が噴き出し、 氏得意の三頭筋カットすら水でぼやけている状態だった。しか し、それ自体は決して悲観する事ではない。脂肪が残ってしま っている状態とは違い、水分貯留ならナトリウムカットやサウ ナで上手く水を抜けば一晩で仕上がりを劇的に改善することが 出来るからだ。
果たして、試合当日の朝一番に目にした仲川氏の顔は頬がこけ 、前日とは打って変わって精悍になっていた。水抜きが成功し たらしく、氏自身も「喉がカラカラで吐きそう」と言っていた 。これは上手く調整できたかと思い、私たち応援団一同は期待 しながら試合開始を待った。

今年の大会は体重別に3階級に分けて審査を行い、各階級のト ップ3を比較してオーバーオールの順位を決めるという形式で 行われた。まず一番体重の軽いグループ、立川氏はやや小柄で はあるものの良くまとまり、長年にわたって鍛え込まれた端正 な体をしているのが目立った。仕上がりも悪くない。次に75 kg以下級…このグループでは同志社大OBの見並氏が頭一つ抜 けている様に見えた。全体的にバランス良く発達し、特に背中 の厚みやセパレーションが目を引く。仕上がりも良く、ハムス トリングスのカットを鮮明に出せていた唯一の選手であった。 そして仲川氏の出る75kg級。この階級の選手は僅か3人だ った。そしてうち1人は甘すぎてビルダーとは言えない仕上が りだったため、事実上仲川氏と弱冠二十歳の田野氏の一騎打ち となった。田野氏は決して良い仕上がりとは言えないものの上 半身の厚みは貫禄十分、とても二十歳とは思えない見事な体で ある。圧巻は脚である。前も後ろもバランス良く発達している し、何より、太さが凄まじい。対する仲川氏はフレームのスケ ールについては言うまでも無いが、医師という激務のため満足 な食事が確保出来なかったせいか筋量を戻し切れておらず、特 に上体の厚さ不足と重量感を欠く下半身が目に付いてしまう。 仕上がりを武器に出来るタイプでもなく、ややインパクトに欠 く印象がある。本人もそれを自覚されている様で、やや迫力に 欠けるステージングとなってしまった感は否めない。

結局仲川氏は田野氏に敗北して75kg超級2位に終わり、 オーバーオール審査では気持ちの張りが失われた事が筋肉の張 りまで失わせてしまったかの様な印象で下位の選手とも比較さ れてしまい、7位となった。優勝は見並氏、2位は立川氏、田野 氏は3位だった。

試合後の仲川氏の感想が印象的だった。社会人として仕事を こなしながら、特に医師という激務の中ではどんなに頑張って もここが限界だった、他の選手はどうやっているんだろう…と 。たしかに、ボディビルと言うのは精神的にも肉体的にも非常 に過酷な競技である。私も経験があるが、特に炭水化物の量を 制限している時期には発狂しそうにすらなる。仕上がりが気に なって神経の休まる間もない。食の煩悩と試合への不安と焦り に苛まれる数ヶ月を過ごさねばならない。その苦難を乗り越え 己に打ち克った勇者たちが集うからこそボディビルの大会は感 動的なのであるが、社会人として仕事をする人間にはいささか 負担が大きすぎる競技であることも事実である。

ボディビルは科学的な競技であると同時に極めて精神的な競 技でもある。パンツ一丁でステージに立つからごまかしはきか ない恐ろしさがある。その恐ろしい競技に身も心も捧げてしま うと社会生活や家庭生活に支障を来し、貧困や家庭崩壊に結び ついてしまう事すらあるが、彼らにとってみれば筋肉とはそれ ほどまでに妖しく魅力的なのだろう。ビルダーの中に時として 無頼漢まがいの者すら見受けられるのもむべなるかな、である 。
だが、仲川氏の様に仕事の責任を果たすことを優先しながら その中でベストの道を探る、という取り組み方も爽やかである し、社会人として見た場合はむしろこちらが本筋であろう。も ちろん、人間の価値観は多様だし、全てを犠牲にして でも男一匹筋肉を求めて地平線まで走っていってしまう生き方 と、社会常識の中で地道に取り組む堅気のボディビルに優劣を つけることなどできないが、私自身来春から社会人になる立場 として仲川氏の言葉には非常に考えさせられるものがあった。 多忙な中、最大限の努力をされた仲川氏に心からの敬意を払い たい。本当に、お疲れ様でした。

以下結果↓
一般の部

優勝 見並秋帆 2.立川知 3.田野和也…7仲川春彦
クラス別の部

65kg級 1.立川知 2.荒牧友宏 3.内藤大輔

70kg級 1.見並秋帆 2.菱田基春 3.竹内克彦

70kg超級 1.田野和也 2.仲川春彦 3.仲田孝弘

(文責 安延)
最後に一言「長かった学生生活にも別れを告げ、来春には京都 から旅立ちます。
来年からはボディの記事も自前で書いてくだ さいね、現役部員の皆様。」