京都
ーベル部
バーベル部は科学的なトレーニングによって徹底的な肉体改造を目指す体育会所属のクラブです。

伸びるクラブと伸びないクラブ

元部長 佐々木義之

天高く馬肥ゆる秋の空にテニスボールの心地よい音が聞こえていた。 コートには颯爽とした若者と初老の私の姿があった。 といえば、知る人ぞ知る球技下手の私であるから、かっての友人や知人は誰しもいぶかることであろう。 といって、私が隠れてテニスの練習に打ち込んでいたわけでもない。では、何故そんな私の姿があったのか。

実は娘が大学時代のテニスクラブの仲間の一人と結婚しており、二人は西宮に住んでいるが、休みの日などにテニスを楽しみ、 アマチュアテニス大会などでも試合に出場しているテニス愛好家である。 その娘に誘われて、地元大津にあるテニスコートを借りて、テニスをすることにした。 私はテニスを習ったこともなく、昔なかなかラケットにボールが当たらなかった記憶があるくらいだから、あまり乗り気はしなかった。 しかし、余りのいい天気についふらふらと一緒に出かけた。そして、娘婿とボールの打ち合いをした。 まあ、これを老人力というのでしょうか。

ところが、コートに立ってラケットを振ると、何とボールがラケットに当たるのである。 そのボールを打ち返すと、ボールはコートの左右、前後、滅茶苦茶な方向に飛び、あるいは高いボール、低いボール、全くコントロールはできなかったのは当然である。 ところがいずれのボールも再び自分のコートに戻ってきて、最初と同様に私のラケットに当たるのであった。

順次プレイヤーが交代して、私が同じく初めてに近い家内とプレイする番になると、お互いになかなかボールがラケットに当たらない。 おかしいと二人して必死になってコート内を走り回るがなかなかうまくいかず、ただただ疲れるのであった。 こんなはずはなかったのになんてぬけぬけと思ってしまう。

そんな週末も、ガーデンバーベキューを楽しんだ後娘達は帰っていった。 家内と二人になって、話がテニスに及んだとき、娘婿の返してくるボールが本当に打ち易いということで二人が一致した。 ラケットにボールを当てているというのか、むしろボールがラケットの中には入ってくるみたいだったということになった。 昼間はいい気分になっていたけれども、どうもテニスをプレイしていたのではなく、プレイさせてもらっていたのだということに気付いた。

ここに、初心者に対する手ほどきの極意が潜んでいるように思えた。 初心者に打ち易いボールを返してあげると、ラケットでボールを打ち返すことができる、たとえボールがラケットに入ってきていても初心者はいい気分になる。 夢中になって何度も何度も打ち返す内にどのように打てばどの方向に、どんな強さで飛んでいくかが自然に分かってくるに違いない。 一方、このようにボールを操作できるのはテニスの熟練者であって初めて可能であろう。 その上で、でたらめに返ってくるボールを何度も何度も繰り返し、打ち返してあげるには後進を育てたいという情熱が必要であろう。 これらを兼ね備えた者こそよき指導者であり、このようなよき指導者のいるところに人が育つことを体得した思いである。

  翻って、このことは学問の世界にも通じる。 初学者も、老教授も一同に会して、それぞれの研究成果を発表し、その成果について討論する学会の一般発表会場において、 大学院に進学したばかりで初めて発表をしている初学者に対して、難しい、 そしてベテランでも応えることができないような質問を浴びせる人もいれば、 発表者が説明しきれなかったところをその質問に答えることによって補えるような質問をしてあげるよき指導者タイプの人もいる。 それらの質問が初学者の将来に及ぼす影響は自ずと想像できよう。 後者の質問を受けた初学者は強い啓発を受けて、大きく育っていくであろう。 このような質問ができるのはその道に精通していて、その学問に深い愛情を持っている者である。 学問の道にある者としてかくありたいと願わずにはいられない。